ドイツ国立カールスルーエ音楽大学大学院修士課程ヴァイオリン専攻在学中(2021年3月現在)

2019年3月
広島大学教育学部第四類音楽文化系コースヴァイオリン専攻卒業

4歳よりヴァイオリンを始める。2013年弓室内合奏団第2回定期演奏会、同年、コジマ・ムジカ・コレギア第23回定期演奏会、2016年ムジカ・コレギアin尾道、2018年広島大学生有志によるConcerto Concertの各演奏会でソリストとしてオーケストラと共演。2018年 第12回べーテン音楽コンクール全国大会第2位。2013、2015、2016年しまなみ音楽祭に参加。2015年ドイツにてMattheiser Sommer Akademie Bad Sobernheim、2018年イタリアにてTalent Music Summer Courses&Festivalを受講。2015~2018年大植英次プロデュース威風堂々クラシックin HIROSHIMAに出演。2019年広島大学教育学部第四類音楽文化系コースを卒業、同年、渡独。2020年ドイツにて ”Trio Staemmler” 室内楽マスタークラスを受講。ヴァイオリンをこれまでに塩崎紀子、瀬川光子、小島秀夫、高旗健次、ナフム・エアリッヒ各氏に師事。室内楽をハンスヤコブ・スターミュラー氏に師事。2019年より中村音楽奨学生。現在、カールスルーエ音楽大学修士課程、ヴァイオリンコース在学。

広島大学では本当にたくさんのことを経験しました。私は昔から室内楽がすごく好きで、大学時代もたくさんのアンサンブルをしました。高校生までとは違い、行事の準備や運営を学生主体で行うので先輩の運営の仕方を習いながら、自分たちでたくさんのコンサートを企画、運営しました。弦楽コースの2つ上の先輩から始まった弦室内楽演奏会では、弦楽8重奏やピアノ5重奏など学年を越えて先輩や後輩、教授と一緒に演奏することができ、とても刺激的でした。私は大学2年生の時、同期とサックス、ピアノ、ヴァイオリンのトリオグループを組んで活動しました。珍しい組み合わせなので楽譜があまり無く、自分たちでアレンジしたり、友達に作曲してもらったり、ポップスからクラシックまでさまざまな曲をカフェやライブハウス、大学の室内楽コンサートなど演奏しました。同期と曲についてお互いのアイディアを共有しながら作り上げていくのがとても楽しく、県内外でこのグループで一緒に演奏できたことはとても充実した時間でした。また先輩主催のコンチェルトコンサートでソリストとして広島大学の学生オーケストラと共演させていただいたり、ソロ、アンサンブル、オーケストラと多くのコンサートがあり、充実した大学生活でした。

また音楽コースの仲間だけでなく、教育学部の他のコースの学生とも交流する機会がたくさんありました。行事やお祭りが大好きな私はE行事という教育学部全体で行うキャンプや大学祭の運営など欠かさず参加していました。これは学校の先生になった時にどうやって行事を運営していくか勉強するためでもあり、総合大学の教育学部ならではの行事です。キャンプでは物品の係りとしてキャンプファイヤーのための薪を割ったり木を組み立てたり、キャンプファイヤー中も耐火手袋をつけて火の調節をするため木を動かしたりしました。私が小学校、中学校の時に野外活動で楽しんだキャンプファイヤーの時、先生たちはこういう仕事をしていたんだ!と改めて気づきました。大学祭では、1年生が毎年食べ物の出店をするのですが、その出店やステージでのパフォーマンスの統括を担当する係りをしました。行事を盛り上げるために他コースの仲間と一つのことをやり遂げる大変さと楽しさを共有し達成感でいっぱいでした。3年間ずっとE行事に関われたことは、大学時代の忘れられない経験の一つです。

そして、ワールドシップオーケストラという団体にも参加しました。これは、日本全国から同じ志を持った学生が集まり、東南アジアを中心に現地の学校を訪問し、一人でも多くのアジアの子供たちへ「はじめてのオーケストラ体験」を届けるというプロジェクトです。広島大学からも何人か参加している学生もおり、私はこのプロジェクトをきっかけにオーケストラ教育に興味を持つようになりました。私は小さいころからヴァイオリンを弾き、オーケストラの演奏はたくさん聴いて育ってきましたが、世界にはオーケストラの演奏を実際に初めて聴く子どもたちがいることにはっとさせられました。私が訪れたフィリピンでは、毎回どの学校も拍手大喝采で、私たちの演奏を喜んでくれました。言葉は通じなくてもこのように声や表情、仕草からわかる、子どもたちの素直なリアクションに改めて音楽の力の素晴らしさを深く感じた瞬間でした。また、貧困地区トンドにある小さな弦楽合奏団へワークショップとコンサートをしに訪れました。合奏団とはいえ少人数で楽器も寄付やボランティアによって集めたもの、とても生活できると言えないような環境、今でも忘れることのない景色と臭い。テレビやネットだけではわからなかった世界の現状を知りました。行く前は、貧しい=かわいそうとどこかで思う自分がいましたが、そんな考えはなくなるくらい生き生きとした現地の人々の姿が印象に残っています。トンド合奏団に入団して間もない女の子にヴァイオリンを指導しました。彼女の瞳は学ぶ喜びでいっぱいで私のアドヴァイスを全部吸収しようと一生懸命練習する姿に感動しました。他、カンボジアオペラプロジェクトにも参加しました。カンボジアでは初となるオペラ全幕公演を行いました。学生向けと一般向けの2公演を行いましたが、現地のテレビ局やカンボジアの王子が聴きに来てとても大反響でした。オーケストラのメンバーは日本の他5カ国から集まった学生や音楽家で構成され、国境を越えて音楽を通して交流する喜びを感じました。

フィリピンでヴァイオリンの指導をしている様子

広島大学では学校内外で総合大学だからこそできる音楽面、教育面さまざまなことに挑戦することができました。それらの経験を通して音楽の可能性や力を感じ、もっと深く音楽と向き合ってみたいと思い、留学することに決めました。大学時代にさまざまな人と出会い、たくさんのことを見て経験したおかげで、視野が広がり、留学をする決心が出来たのだと思います。
大学を卒業し翌月にドイツに行きました。始めの3か月間は語学と受験に向けての練習の毎日で、6月末に受験し、10月からカールスルーエ音楽大学での勉強がスタートしました。説明会や講義などすべてドイツ語なのでシステムもあまり理解できないまま大学生活が始まりました。やはり最初は言語の壁にぶつかり、友達をつくるのってこんなに大変だったかな?と思いながら過ごしました。ドイツでは入学式がないため誰が新入生かもわからず、練習室を待っている時に近くにいる人に話しかけてみたり、新学期のパーティーに行って誰かに話しかけたり、今思えば自分でも勇気ある行動だったなと思います。エアリッヒ先生のレッスンは毎回パワフルで愛情深く刺激的でした。先生の言葉一つ一つが胸に刺さり、もっとこう弾きたい、こうなりたいという意志がどんどん出てきました。そして人前で弾く練習でもあり、クラスの皆のレッスンを聴講できるグループレッスンもありました。多国籍で個性が強いので、演奏からその人のキャラクターがよくわかるような皆の演奏はとても新鮮で勉強になりました。初めてのオーケストラプロジェクトでは、作曲家のペーテル・エトヴェシュ氏本人による指揮で彼の曲を弾きました。それまで現代音楽に苦手意識がありましたが、実際に作曲家の意見を聞き解釈しながら演奏することができ、おもしろいと思えるようになりました。大学生活にも慣れ、知り合いも増えてくると作曲コースの生徒の作品の演奏の依頼をいただく機会も増えました。コンピューターと一緒に弾いたり、モテットを引用した曲などおもしろい曲をたくさん弾きました。

1学期が終わってすぐに世界的にCovid-19の大流行が起きてしまい、大学もレストランもお店も全て閉まりロックダウンになりました。海外でこのような初めての事態に陥るのは正直怖い気持ちもありました。しかし、同居しているドイツ人の優しい老夫婦と一緒に料理を作って食べたり、散歩をしたりゆっくり過ごすことで、不安もだんだんと少なくなりました。カールスルーエにはすぐ近くに自然がたくさんあります。日本にいた時は忙しく、自然の良さを考えたことはあまりありませんでしたが、このような状況になって自然の中に行くと不安な気持ちが癒されていくのを感じました。そしてCovid-19の状況下で特別なルールのもと大学も再開し、3学期には室内楽の試験を受けました。私は先にも述べたように室内楽が大好きなので、同時期に4つのグループを掛け持ちしていました。特にCovid-19の影響で人と弾く機会がなくなっていたため、久しぶりにアンサンブルが出来た時は大変嬉しかったです。グループ内で意見を共有するのはもちろんドイツ語なので伝えたいことが上手く表現できず、もどかしい気持ちにも何度もなりました。合わせの回数を重ねるごとにドイツ語も上達したし、グループ内で曲について話し合い深めていくのもとても楽しかったです。室内楽の先生も素晴らしく、合わせやレッスンの度に新しいアイディアや発見があり、とても充実した時間でした。広島大学時代にたくさんのアンサンブルを経験したことも私の糧になっているなと感じました。広島大学で高旗先生のもとで学び、そして開けたドイツへの道、卒業後も頑張っておいでと背中を押してくれた両親や友達に支えられて今の私がいるんだなと思います。

もうすぐ4学期が始まります。まだまだ世界の状況は落ち着かないですが、できる範囲でいろいろなことにチャレンジし、多くのことを吸収していきたいと思います。そして、いつかそれを還元できるよう、これからも日々精進していきます。